「産後クライシス」という言葉を聞いたことはありますか? 子どもを持つ前には仲良しだった夫婦の関係が、産後に悪化してしまうことを言います。僕は2歳7ヶ月の子どもを持つ親ですが、子育ては大変なことばかりです。それまでは夫婦のことだけを考えて生きればよかった環境に、子どもが加わる。生活リズムは当然変わるし、ふたりだけで暮らしていた時期と同じ関係でいるのは難しいと肌で感じます。けれども、「産後は関係がごたつきやすい」ことを夫婦が理解して向き合えば、乗り越えられると僕は考えています。どんなアプローチをとるかは家庭によって違うでしょうが、僕は自分が働き方を変えることで家族に向き合ってきました。気づけば家庭優先の働き方をして2年ほどが経っています。自分の生き方を変えることへの葛藤や悩み、それを乗り越えた結果、今の生活が夫婦仲にどんな好影響をもたらしたかを書いてみます。文:そのべゆういち(@papayuyu0309)子どもが生まれ、家族3人の幸せな日々が続くものと思っていたのに……息子が生まれたのは2017年6月のことでした。我が子が誕生し、家族3人で幸せな毎日を送るものだとばかり思っていたのですが、退院後1週間ほど過ぎたとき、妻の心身に変調をきたすようになりました。妻の目には光がなくて、息を吸うのがやっとなくらい疲れている。子どもをずっと楽しみにしていた妻の口から「子どもが可愛くない」という言葉が発せられました。初めての妊娠と出産で妻の心身は疲れ切っていました。下のグラフは、当時の妻のスケジュールです。育児、育児、育児の連続で休む時間などほぼありません。夜中のミルクで睡眠不足は当たり前でしたし、息子の命を守るプレッシャーをずっと感じ続けていたのです。僕も夜間のミルクは積極的にやりましたし、土日は家事と育児を多く担当しました。でも平日のお世話は妻に任せっきり。仕事で疲れていたときは、夜中に起きられないこともありました。妻から発せられたSOS「今日会社を休まなかったら、一生恨む!」当時僕の意識は、家庭よりも仕事に向いていました。「子どもが生まれたし、たくさん稼がなきゃ!」と意気込んでいたからです。仕事に重きを置く生活が当たり前だと思っていたし、家庭の事情を職場に持ち込むのはNGだと思い込んでいました。だから妻からの「助けてほしい」の声に対して、「仕事だから仕方ない」と返し続けていたのです。それからしばらく経って、妻のストレスが限界に達します。出勤しようと玄関に向かったら、妻が「休んで育児をしてほしい」と声を荒げて僕に詰め寄ってきました。とっさに「仕事があるから無理だよ」と返してしまい、妻がキレます。家族が助けを求めているのに、それを無視してまでやらなきゃいけない仕事って?家族よりも、何よりも大切な会社に行ったらいい。ただ、今日、会社に行ったら一生恨むからね!!!僕の頭は真っ白になって、玄関でただ立っていることしかできませんでした。このとき妻は、離婚も覚悟したといいます。妻の激怒で僕は妻の負担と気持ちを理解し、「このままでは家庭が壊れてしまう……。よし、働き方を変えよう!」と決めます。その日は仕事を休み、家事と育児をすべて僕が担当して、妻には心と体を休めてもらいました。当時の僕にとって最大のネックは、片道一時間半の通勤時間でした。在宅メインの働き方に変えれば、その分時間の余裕が生まれるわけです。翌日の出社時に会社へ状況を伝え、定期的に出社することを条件に、在宅メインの働き方に変えてもらうことができました。これは妻の希望でもありました。当時、必死すぎて会社とのやり取りを細かく覚えていませんが、僕が驚いたのは「働き方を変えたい」という相談に会社が乗ってくれたこと。決められた就業ルールを守らないといけないと思い込んでいて、行動を起こしてこなかったのです。平日の昼間にベビーカーで散歩「俺は何をやっているのだろう?」家庭優先の働き方をすると決めたのは僕なのに、葛藤を抱えていました。働き方を変えることが人生に与えるインパクトは、思ったよりずっと大きかった。ちょっと前まではオフィスで仕事をしていたのに、今はベビーベッドや哺乳瓶、オムツなど子育てグッズであふれた部屋で子どもを見ながら働いている。僕の中で「仕事=オフィスでする」考えが強かったので、その状況になかなか慣れませんでした。いつもなら仕事をしている平日の昼間に、息子をベビーカーに乗せて近所を散歩していることにも違和感を抱きました。息子が眠ってしまったので公園のベンチで一休みしたとき、「平日の昼間に、俺は仕事もせずに何をやっているのだろう……」と虚しさを感じたこともあります。それに仕事に集中できるのは、夜など息子が寝ている時間帯なので、仕事関係者との連絡にも制約が生じました。今何をしていようが、息子が泣けば強制的にストップして対応しなければいけません。スケジュールが過密な中、息子が発熱してしまったときには、調整が大変すぎます……。僕だけの都合で動けない状況に強いストレスを感じていました。仕事も育児もしなきゃいけない。どちらにも専念できていないし、仕事のパフォーマンスは落ちている。「なんだか僕は宙ぶらりんだな」とモヤモヤが募るばかりでした。家族は一度壊れたら、もう元には戻らない「子育てはお母さんがするもの」という社会の価値観にも悩みました。子どもを小児科へ連れていったときにはスタッフから「お母さんは今日いないの?」と言われましたし、家庭の都合で仕事を断ったときには「奥さんは何をしているんですか?」と質問されたことがあります。悪意がないのはわかりますが、それらの発言の裏には「男性であるあなたがなぜメインで育児をしているのか?」との疑問が見え隠れします。父親である自分が率先して子育てをしにくいと感じたのです。僕の中にも「男は仕事」との価値観があって、口では家族優先と言いながらも、仕事に集中しきれない自分に苛立ちを感じることが多かったです。自分の心との戦いのようでした。その後は自営業を始め、時間にはさらに融通を利かせやすい環境になりました。相変わらずモヤモヤを感じていたのですが、家族を優先する働き方を続けていくうちに心境に変化が訪れました。心の迷いが晴れてきたのです。大きな理由は、僕の人生で何が一番大事かが明確になったことです。しっかりと休んで笑顔を取り戻した妻の姿や、元気に成長する息子を見て、「今やっている仕事がなくなっても別の仕事がある。もしお金がなくなったら、自治体に相談する手もある。でも家族は一度壊れたら、もう元には戻らないんだ!」と心から思えました。家族との絆を守ることを最優先にしたい、と腹が決まったのです。※当時のことは、あつたさんとの『Voicy』でも詳しく話しています。夫婦仲が良いと、毎日が楽しくなる産後には離婚まで覚悟されたわけですが、家族優先の働き方を選んだことで妻との関係は劇的に良くなりました。個人的にいいなと思うのは、家事と育児の大変さを肌で感じられて妻の気持ちがわかったことです。これは当時の写真です。幸せなひととき……に見えるかもしれませんが、昼間の家事と夜のミルク対応で、翌朝もぐったりです。細切れ睡眠のため頭がスッキリせず、これから1日が始まるなんて信じたくない状態でした。これでは家事育児に非協力的なパートナーに苛立つのは当然です。育児中はタスクが次々にやってきて、休む時間が本当に取りにくい。ホットコーヒーを温かいまま飲めないなんて、しょっちゅうでした。何事も自分ごととして取り組まないと、そもそも何が大変なのかがわかりません。子育てのプレッシャー、家事と育児の忙しさ、ときには働き方を変えざるをえない状況など、どんな変化があるのかが理解できれば、相手のために何ができるかを考えられるようになります。子どもとの関係にも良い面があります。小さい頃からたくさん関わったからか、息子はパパっ子に育ってくれました。着替え、歯磨き、寝かしつけなど「ママじゃなきゃイヤ!」と駄々をこねないので、妻の負担を減らせます。子どもが自分に懐いてくれるって、言葉にできない嬉しさがあります。初めて「パパ」「ママ」と言った、つかまり立ちをした、単語をたくさん発せられるようになったなど、子どもの成長の瞬間を目の当たりにできたのは幸せでした。それに夫婦仲、家族仲が良いと毎日が楽しくなります。仕事にも前向きな気持ちで取り組めます。家庭にゴタゴタがあると気がかりで、仕事に集中しにくいですよね。以前の僕は、仕事より家庭を優先するなんて考えられませんでした。でも子育てを通じて家庭重視の働き方をしてみたら、葛藤は経たものの予想以上の心地よさを感じます。「男性は仕事、女性は育児」みたいに生き方を決めつけず、状況に応じて夫婦がさまざまな選択肢をとれる方が、夫婦関係や家庭にも良い影響があると思っています。>>>産後の働き方や子育て方針など、産後の育児体制についてカップルで話し合える「ふたり会議」の詳細を見る今の自分にできることをやっていこう!ここまでいろいろと書きましたが、あくまで僕の事例です。家庭を優先した働き方は、フリーランスや自営業だけではありません。いきなり会社を退職するのはリスクが高すぎますし……。なので今の環境の中で、自分ができる範囲で働き方を変えていくのが良いと僕は思います。たとえば、育児休業を取得する在宅で働く機会を増やす時短で働く今よりも早く帰宅する両親・義両親を頼るベビーシッター、家事代行を活用するなどのアプローチでしょうか。もしこの記事を読んだ方が「よし、自分も“家庭優先の働き方”をしよう」と思ったら、まずしていただきたいことがあります。それは、パートナーが何を望んでいるかを話し合うことです。パートナーがどんなことに大きな負担を感じているのか、自分に何を望んでいるのかをしっかりと把握しないと、適切な対応はできません。そのうえで、行動にうつします。僕はこの点で大失敗を犯しました。妻は「できる範囲でいいから働き方を変えてほしい」と助けを求めてきたのに、僕は「家族のために仕事を頑張っているのだから、変えられない」とつっぱね続けてきたのです。結果として、「家族のため」のつもりが夫婦仲を悪くしていました。家事の分担を増やしてほしいのか、保活を主体的にしてほしいのか、育休を取ってほしいのか、大変さをわかってほしいのか、パートナーの希望を聞くのはとても大切です。>>>産後の働き方や子育て方針など、産後の育児体制についてカップルで話し合える「ふたり会議」の詳細を見る子どもを持ったら、夫婦は子育てという一大プロジェクトを担うチームメンバーです。メンバーの希望を聞き、状況に応じて体制を変えるのはプロジェクトの進行に必要です。僕にとって家族を優先した働き方は、一家のチームメンバーとして僕が選択した最適なアプローチなんです。産後クライシスの防止には対話アプリ「ふたり会議」がおすすめ!「忙しい毎日で、話し合いのきっかけがつかめない」「相手に自分の状況や気持ちを伝えるのが苦手」と悩んでいるなら、カップル・夫婦向けの質問アプリ「ふたり会議」を活用するのもおすすめです!「ふたり会議」では、子どもができたあとも働きたい?パートナーに育休をとってほしい?無痛分娩にするかなど、分娩の方法は産む側の希望に合わせたい?(合わせてほしい?)今後、自分が育児休暇の取得や時短勤務などで、収入やキャリアに影響が出ることに抵抗はある?家電の購入や家事代行、ベビーシッターなど、家事・育児の効率化にお金をかけたい?などの質問項目に答えるだけでお互いの価値観を手軽にシェアでき、出産や育児、家事分担などについての話し合いをスムーズに進められます。今すぐアプリをチェック👇ふたり会議 | LINEでできるカップルの質問アプリ〜楽しく価値観を共有〜